あしなが育英会 陸前高田レインボーハウス

2011年、2012年、2013年のはじまりの日の売り上げや寄付金はあしなが育英会に支援されています。
(内訳についてはこちらをご覧下さい → 
2013年の支援金は、東北の子どもたちをサポートする拠点である、
東北レインボーハウス建設や運営に使われています。
この夏、3カ所の東日本レインボーハウスを訪ね、担当者の方々に被災地の現状などを伺いました。
そのレポートを3回に分けてお送りしています。今日は最終回。

データ)あしなが育英会 陸前高田レインボーハウス
    岩手県陸前高田市高田町字鳴石112-7
    竣工:2014年6月29日
    
お話を伺った方)あしなが育英会 東北事務所 岩手県担当 山下さん



陸前高田市の山手に建てられたレインボーハウス。
周囲の山の景観に馴染むよう、山並みを模したような特徴的な
屋根の形状をしている。



陸前高田では、大津波によって、市街地の建物の大半が
なくなってしまったため、土地を借りて、新たに建物を建てた。


地道な活動

お話を伺った山下さんは、石巻レインボーハウスの今井さんや佐藤さんと同期とのこと。
山下さんは高校生の時にお父様を病気で亡くされ、あしなが育英会奨学金で大学に進学。
在学中から養成講座を受け、ファシリテーターとして活動をされていたそうです。

2014年6月に竣工した陸前高田レインボーハウス。
活動が始まったのは、じつは竣工してからではなく、2011年9月末には、
現在の建物に隣接した土地にトレーラーハウスを設置して活動を始めていました。

陸前高田とその周辺市町村の津波で親を亡くした子どもたちと交流しながら、
沿岸部の津波遺児家庭を訪問し、お話を伺う活動をしていました」

あしなが育英会では調査の結果、被害の大きかった山田町、大槌町にも
レインボーハウスを作る予定でしたが、
町民の移転で安全な高台がほとんど住宅用地に使われ、
土地の取得がかなり困難な状況にあるそうです。

また、町役場の職員も被災したり亡くなったりしており、
職員の半数近くは全国の自治体からの応援職員であるため、
担当職員と話しを詰めていても、任期の為に地元に帰る事になり、
新しい担当者ともう一度いちから話しを始める、という事もあるとのこと。
被災地での活動が、いかに難しく、時間がかかるか、が伺えます。


東北レインボーハウスに共通のあしながおじさん壁。
子どもたちが自分の身長に印を付けて、成長を記録する。


地域の特徴からくる負担

山下さんに今、困っておられる事をお伺いしました。
石巻レインボーハウスの今井さん、佐藤さんと同様に

ファシリテーターの不足ですね」

陸前高田は街全体が被災地なので、ファシリテーターさんは仙台や盛岡など
陸前高田から離れている場所から来られます。
陸前高田までは、移動に時間がかかるので、
その都合上、イベントのプログラムを午後からにしか出来ないのです」

「また、地域の特徴として、みんなどこかで繋がっていて、顔見知りだったりします。
それが子どもたちの負担になることもあるのです。
自分の家族が亡くなったことを知られたくない子どももいて、
知っている大人と顔を合わせたくないと思っています。
そういう事情から、東京から来たファシリテーターさんに
すーっと寄って行く子どももいます。
自分を知らない人の方が素直になれる、という事があるのかも知れません」


時間とともに変化していく大人と子どもたち

また、時間経過とともに大人や子どもたちに変化が出て来たとのこと。

「被災した当時は、みなさん同じ被災者で、協力し合っていました。
しかし、時間が経過すると「仮設住宅を出られる人」もいれば「仮設住宅をでられない人」もいます。
また、義援金や給付金などが入る人もいれば、離婚したご主人が亡くなったけど籍が入っていない為に
子どもが一時金を貰えないなど、状況に温度差が出て来ました。
大人が感じる温度差は、敏感な子どもにも伝わってしまいます」

不登校の子どもも増えています。
お姉ちゃんだから、年上だから、〜だから我慢しなさい、〜だからしっかりしなさい、
に疲れてしまっているのかもしれません。
学校に行かなくなったある男の子が、最近、お母さん対しても反抗的で暴力的な態度をとっていたようです。
でも、レインボーハウスでは年下の子の面倒を良く見て、決して暴力的な態度はとりません。
レインボーハウスでの様子を見たお母さんが、家との違いに驚いていました。
レインボーハウスでは「〜だから」という役割を要求されることはありません。
ありのままの自分でいられる。男の子にとっては、それが良かったのかも知れませんね」


建物の中央にある階段。
子どもたちが「あっ!」と感じるデザインが施されている。


子どもたちに寄りそう為のルール

レインボーハウスでは子どもたちに接する時のルールがあるそうです。

・子どもが、「何がしたいか」を引き出して、指示をするような事はしない。
・「自分がされて嫌な事は、言わない、しない」を守るように指導する。

たとえば、「レインボーハウスで、携帯型ゲーム機で遊ばないように」と指導します。

その理由は、ただ禁止しているのではなく、
「持っていない子もいるから、その子の気持ちを考えてほしい」という思いからです。
またレインボーハウスでは、“人の出会い”や、“人とのつながり”を大切にしています。
携帯型ゲーム機は、出会いやつながりのきっかけになることもありますが、
それはその場限りの事が多く、つながりや出会いが広がっていく期待が薄いからです。


屋外の光が入る多目的ホール
陸前高田では街全体のかさ上げの工事が急ピッチで進められているが、
そのためダンプカーの台数が非常に多く、外で遊ぶ事も難しい。
仮設住宅でも大きな声を上げる事ができないので、
レインボーハウスでは、歓声を上げながら、自由に走り回っているそう


負担をかけない寄りそい方

「保護者の皆さん、それぞれがパートナーを亡くして辛いなか、
仕事もして、子育てもして、がんばっています。
キャンプのときは、親御さんにも宿泊していただきますが、
子どもたちの事は、スタッフやファシリテーターにまかしてもらいます」

その間、保護者の方々は和室に泊まり、子どもたちは多目的ホールにテントを張って
スタッフやファシリテーターの人たちと一緒に寝るという、
別々の時間を過ごすそうです。

「子どもたちの様子は、いつでも見られるようになっていますが、
少しお子さんと離れて、親御さん同士で悩みを打ち明け合ったり、
相談したりして、自分の時間を持っていただけるようにしています」

「そういえば、こんな事もありました。
男の子のいるお母さんが、おしっこの仕方をどう教えたらいいのか分からないと
話していると、他のお父さんが、その男の子と一緒にトイレに行って仕方を
教えてくれました。きっと逆の場合もあるんだと思います」

「このレインボーハウスに来ている親御さんは、みなさんパートナーを亡くされています。
ここでは、改めてその事を説明する必要はないので、みなさん、その点でも負担が少ないようです」

スタッフの方たちは、子どもたちの心のケアをするのと同時に、
その親御さんにも心を配る活動をされています。

最後に、山下さんに「伝えたい事」はありますかと伺いました。

「もし、東北にいらっしゃったら、見た事、感じた事を、
帰って周りの人にも伝えて、アウトプットをお願いしたいです。
そして、どうか押し付けるのではなく、広い被災地のそれぞれにあるニーズを
受け止めてほしいと思います」

今回、来てみなければ分からない事がたくさんありました。
東北の土地の広さ、交通事情、地域性・・・
「誰の為に、何をするのか」
被災地の事情を置き去りにしてはいけないのだと、本当に強く感じました。

はじまりの日実行委員 上山智春